いつから俺は、こんな感情を持つようになったんだろう……。 「起きなさい。そろそろギルドに出かける時間でしょ?」 兄の声に促されるまま小さな少年は目を覚ました。 数時間前に依頼された仕事に赴くために。 「ん、解ってるよ。兄さん」 眠い目を擦りながら洗面所の前で顔を洗い、髪を梳かしていつもの服に腕を通す。 軽く食事を取ってから、ギルド入口前まで兄に送って貰った。 今回の依頼は、「自分の大切な物を取り返して欲しい」という依頼だった。 『よくもまあ、そんな最深部まで行って物を落としてくるものだ』と内心感情が揺らいだ。 この依頼が達成されれば、その人は安心するのだろうな。 でも、それは時に悲惨な現場を目撃する場合もある。 誰かが助けを求める限りこの仕事は終わらない。 誰の為に? …人は一人じゃ生きてゆけない。 何の為に? 自分達が生きていく為に。 だから誰もが少なくとも、大切な物を一つは持っている。 肉親、恋人、親友…。 他にも沢山あるかもしれない。 誰かを護る為に。 たとえ、それが出会ったばかりの他人だったとしても不思議な事じゃない。 「俺も…そうなのかもしれないな…」 あの日、いつものロビーで賑わっていて、仲間から友人だと紹介された。 背はほぼ同じ位の黒い服を纏った青髪の少女。 髪は長いせいか後ろで三つ網に結ってある。 あれから、彼女の事を想う様になった。 物事をハキハキ言う所はさすがに負けたとは思ったけど。 でも、それも君の良さだから気には留めていない。 何処にいても、何をしていても彼女の事が頭から離れない。 時には、心配しすぎて仕事に集中出来ない時もある。 きっと…きっと俺は彼女に恋をしたんだ。 あの日から、君を護る為に、力になれる様に努力している。 大切な人だから。 だから今、こうして何かの為に戦っている。 でも、最近君の姿が見当たらない。 ――不安だった 俺は本当に君を護って行けるか。 時に獣の様な者を、時には意志を持つ機械をこの剣で切り裂き、誰にも危害を加えさせない様に。護る為だけに剣を振るう。 どんなに強大な者と対峙しても、立ち向かって行ける様に……。 ――でも、そこで手を離したら君が消えてしまいそうな気がして…。 それだけは嫌だった。 自分の存在する意味が無くなってしまいそうで―― 「ありがとうございます。これが私の探していた物です」 目の前の依頼主は満面の笑顔を見せ、お礼を述べている。 でも依頼を達成したというのに、あまり嬉しくなかった。 「あの、LIOTさん?報酬はこちらですが…」 依頼主が心配そうに顔を覗き込んでいる。 何も言わず、リオットは無言で家路に向かった。 報酬を受け取ることも無く。 家に帰るまでの間もずっと考えていた。 俺は何の為に戦っているのだろう? 「ただいま」 帰宅すると、兄が夕食の支度をして待っていた。 いつもと変わらない笑顔で。 でも、いつもと違う弟の行動に気付き、すぐに不安そうな顔をする。 「リオット、ギルドで何かあったの?」 無言で首を振り、兄の発言を否定すると、黙ったままテーブルにつく。 『ああ、また心配をかけている…』 夕食後、相変わらず難しそうな顔をしている弟に兄は口を開いた。 「あまり言いたくないけど、本当に何も無かったの?」 「…………」 部屋に重苦しい空気が漂う。 『やっぱり考えすぎるのはよくないよな…』 重苦しい空気の中、リオットは今まで考えてた事を口にした。 「兄さん、大切な人を護るってどういう事なんだろう?」 「………」 唐突だった。 まさか弟がこんな疑問を抱えていたなんて…。 あの時以来なのかもしれない…。 両親が失踪して、調査するために降りた時も同じだった。 気付いた頃にはもうここにはいなくて、私達兄弟だけが残された。 あの頃の私と同じ事をこの歳で考えているのだから…。 「リオット、大切な人を護るという事はね、自分にとってその人がかけがえの無い存在だからなんだよ」 「でも、逆に迷惑かもしれないじゃないか?」 大切な人が出来ると、護りたいというのと共に、自分でいいのだろうかという不安もあるのだろう。 それがさらなる不安を拡大しているから…。 「それに本当に大切なら、自分の代わりになる人なんて誰もいないと思うんだ」 「自分の代わりになる人がいない…」 「だから、その気持ちを伝えなくちゃいけないと思うんだ。その大切な人に」 話をして、少しだけ空いていた穴が塞がった様な気がした。 「ありがとう、兄さん」 そういうと、自分の部屋へ掛けて行く。 「これでよかったんだろうね」 弟の様子にほっと胸を撫で下ろし、カチャカチャと食器を片付け始めた。 急いで自室に戻ると部屋に完備されているパソコンを立ち上げる。 大切な人へメールを書く為に。 もう、迷わない。 君を護る為にどこへでも行こうと決めたから。 Fin
昔発行したPSO本の小説(と呼べる物ではないか^^;)を修正して載せてみました。 |
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